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 杉本 徳栄(Tokuei Sugimoto, Ph.D.) 留学体験記-Duke Univ.-





緑豊かな大学町ダーラム
−Duke University留学報告記−


杉本 徳栄

 緑樹の間から木漏れ日が差す道が続く。デュークの森、デューク・フォレスト(Duke Forest)だ。 勢い良く小さな翼を回転するように羽ばたかせて花の前で静止するハチドリが愛らしく、木の実を抱 えるリスは愛嬌たっぷりな振る舞いをする――8,500エーカー(1,050万坪)を有するDuke University は、広大な森に包まれ、まさに自然の宝庫を擁するアメリカ最大級の大学である。在外研究の機会を いただき、1999年8月から2000年9月までの14ヵ月間、この緑豊かな環境のもとで過ごすことができた。


[写真1] デューク・チャペル(Duke Chapel, Central Campus)

Duke University

 アメリカ南東部にあるノース・キャロライナ(North Carolina)州に、アメリカ連邦政府は企業・医療の国際的な研究・開発センターのリサーチ・トライアングル・パーク(Research Triangle Park: RTP)を開設している。州都のラーリー(Raleigh)、そしてチャペル・ヒル(Chapel-Hill)とダーラム(Durham)は、それぞれ自動車で15分位の所に位置し、いずれもNorth Carolina State University、 University of North Carolina at Chapel-Hill、そしてDuke Universityという有名大学を擁する大学町である。これら3つの町をその極として、その中央に研究・開発センターを創設していることから「トライアングル」と呼んでいる。RTPは135機関・40,000人の研究者が関与しており、Duke Universityを擁するダーラムは、東海岸から内陸へ自動車で3時間余りの、博士学位取得者が多く住む人口約20万人の町である。また、メジャー・リーグのアトランタ・ブレーブス(Atlanta Braves)傘下のマイナー・リーグ、ダーラム・ブルズ(Durham Bulls)の本拠地でもある。

 他の2つの町の大学とは違って、Duke Universityは1839年に創立された統一メソジスト教会系の私立大学である。タバコ産業で財を成したWashington, Dukeの寄付によって、Trinity Collegeから総合大学となり、医学、法学、ビジネス・スクール、科学、工学、環境、看護、芸術などの9つのSchoolから構成されている。学生数は12,000名で、その半数が大学院生である。「南部のHarvard」と呼ばれることもあるが、Harvardよりも研究環境や教育内容は優れているとして、Harvard出身の大学院生達はこの呼称を否定している。

 日本での研究の方法論をはじめそのあり方などに対して閉塞感に包まれていたときだけに、会計学の理論と実証の研究について先進のアメリカで一から学べることが何よりも嬉しかった。大変有り難いことに、留学先については恩師の先生方が数校ご推薦してくださった。しかし、先ずは私自身が学びたい大学へ申請し、最終的に受け入れが認められなかった場合に推薦先へ赴くことにした。

 今日の会計学に画期的な変革をもたらした『基礎的会計理論に関するステートメント(A Statement of Basic Accounting Theory)』(1966年)を引き継いで、意思決定モデルについての研究報告書『外部報告実務の評価(An Evaluation of External Reporting Practices)』(1969年)を纏め上げたアメリカ会計学会(American Accounting Association)外部報告委員会のメンバーであり、その後連結財務諸表、税効果会計および証券取引法会計をはじめとした会計理論で著名なThomas F. KellerのいるDuke Universityを選んだ。日本の会計学者がほとんど留学していないこともひとつの決定要因であったが、研究テーマのひとつである証券規制(Securities Regulation)の第一人者、James D. CoxがDuke University School of Lawの教授であったことがそれを確実なものとした。しかし、近年、アメリカの大学の受け入れが厳しいという実態をよく耳にしていただけに、不安が募る。

 一連の書類を添えてThomasに申し出ると、すぐさま経営学を専門とするSenior Associate DeanのPaul H. Zipkinから受入許可書が届いたときには、驚きとともに感激した。Thomasが担当者に働きかけてくださっていた。Duke Universityのビジネス・スクール、The Fuqua School of Business(通称はフュークァ(Fuqua))でのResearch Scholarとしての生活が始まることになる。



[写真2] The Fuqua School of Business(West Campus)

Fuquaでの研究生活

 FuquaのResearch Scholarとして、とくに研究面では思いがけないほどラッキーで、しかも恵まれていた。シカゴ学派のメッカ、University of ChicagoからKatherine SchipperとJennifer Francisが8月末からの新年度開講に合わせてFuquaに移籍してきたのである。

 Katherineは1997−1998度のアメリカ会計学会会長を務め、彼女の能力と手腕は世界に知れ渡っている(2001年9月から、会計基準設定主体としての財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board)のメンバーとなることが確定している)。Jenniferは、Ph.D.学位取得後すぐにDuke Universityで専任講師(Assistant Professor)として務め、Katherine同様、University of Chicagoで終身在職権(tenure)のポストを獲得していた。これまでに多くの優れた研究成果を発表しており、Katherineが編集委員長を務めるシカゴ学派の機関誌Journal of Accounting Researchやその他の代表的機関雑誌の編集委員も兼ねている。

 ダーラムに到着早々、Fuquaにおける会計学(Accounting)のPh.D.クラスとセミナーが、博士課程の大学院生がいないことから皆無に近い状態だということを知って、大きなショックを受けていた。Research Scholarとしての受け入れを極めて迅速に進めてくださり、Fuqua設立以来、長年にわたってDeanを務められたThomas F. Kellerの研究室を訪ね、Fuquaの会計学領域がそれほど充実していないことなどについて話していたときにおっしゃった言葉が忘れられない。「これからのFuquaは会計学領域を重点的に強力なものにしていく。そのために有能な二人をスカウトしたんだよ。私はフランクフルトに設立するThe Fuqua School of Business-Europeの初代Deanとして明日からドイツに赴くが、Fuquaのすべての施設等を思う存分に活用し、スタッフとの交流を深めて研究成果をあげなさい。あなたは絶好のタイミングでFuquaに来たのだから。半年後に再会できることを楽しみにしているよ。」



[写真3] Thomas F. Kellerとともに(Celebrate Fuqua 2000にて)


 渡米前に、武田隆二先生(神戸大学名誉教授・大阪学院大学教授)から新刊書の書評の執筆依頼をいただき、調べものをしている時に、約25年前にDuke Universityへ留学されていたことを知った。その時の受け入れ教授がThomasであったとお聞きしたときには、さすがに驚きを隠せなかった。このことがひとつのご縁となって、アメリカ滞在中、武田先生からもっとも多く心温まるお便りをいただいた。

 武田先生はFuquaでの留学の後、日経・経済図書文化賞受賞作の名著『連結財務諸表』(国元書房)を刊行されている。Thomasもその当時のことを詳しく話してくださった。Fuquaでの日本の会計学者の留学受け入れは、ほぼそれ以来とのことと聞けば、やる気の出ない者はいないはず。

 研究を深めたい領域を中心として、Fuquaに限らず、他のSchoolやDepartmentの講義にも出席させていただいた。財務論(Finance Theory)のPh.D.クラスを皮切りに、滞在中に7講座で学ばせていただいた。その生活リズムは博士後期課程在籍中に留学したときと変わりなかった。加えて、留学開始と同時に始まった一年間の専門雑誌の連載原稿執筆とその校正に毎月追われていただけに、大学と自宅との往復の日々であった。でも、学ぶことが本当に楽しかった(一段落したときには10ヵ月余り経過しており、それまで学会出席などを除けばノース・キャロライナ州からほとんど出ることがなかっただけに、妻には申し訳なかったが・・・・・・)。

 Duke University School of Law(ニクソン元大統領が卒業している)では、“SEC Watcher(アメリカ証券取引委員会の監視人)”との異名を取るJames D. Coxに証券規制ついて学ぶ機会を与えていただき、またご指導いただいた。満席の教室で学生を惹きつける術には感心し、研究室では温和でユーモアを兼ね備えた大変真摯な先生であった。Jamesの処女作が会計情報と証券規制に関わるものであり、また夫人も以前にDuke Universityで会計学の教授であったことなどから、何時しか“My friend, Tokuei”と声をかけてくれたときは嬉しかった。



[写真4] James D. Coxとともに(研究室にて)


 “Tokuei”を「トクエイ」と発音するのが難しいらしく、会計学スタッフのRichard H. Williamsが“Tokway”とスペルを変えて呼び出した頃から、会計学スタッフのなかではいつしか「トクウェイ」で通っていた。

 KatherineとJenniferが加わったこともあり、Duke UniversityとUNC at Chapel-Hill共催の会計学セミナーが毎週のように開催されたことが私には有り難かった。大手監査法人のビッグ5のひとつであるKPMG Peat Marwickがスポンサーとなり、“Duke/UNC Fall Camp”と題するセミナーがDuke Universityで2日間開催され、第一線で活躍する他大学の研究者達とも交流を持つことができた。

 とくに、Jenniferはアメリカにおける最先端の研究内容について、在外研究期間中いろいろとご教示くださった。School of LawにおいてはJamesから、またFuquaにおいてはJenniferから多くのことを学ぶことができたことは幸せであった。ここで改めて感謝の意を表したい。二人に共通していることは、優れた研究者であると同時に、優れた教育者でもあるということである。たとえば、JenniferはDuke Universityへの移籍早々、予想通りに、学生の授業評価による年間最優秀教育者賞の”The DaimlerChrysler Corporation Award for Innovation and Excellence in Teaching”を授賞したが、University of Chicagoでも数回授賞経験を持つ。Jamesについての評価も同じである。なお、Fuquaでは、職員のサービスについても学生による評価を実施していることは興味深かった。

 「研究と教育は極めて相乗効果があると思う。2つのバランスを保つのではなく、一方のことを努力することが、結局は両者の改善になるのよ」とは、Jenniferからの言葉である。Fuquaでは夏休み期間中に教授法のセミナーも実施され、各種ノウハウについて教わったことも有益であった。



[写真5] Fuquaの研究棟(The Keller Center & The Wesley Alexander Magat Academic Center)

大学町の良さ―Dukeを楽しむ

 ダーラムはDuke Universityを核とした大学町である。ダウンタウンにも各種劇場はあるが、ほとんどの文化・芸術・スポーツなどのイベントは大学内で催される。有名なクラシック音楽やバレエなどを日本では考えられないほど割安価格で鑑賞することができる。また、デューク・チャペルではパイプオルガンの演奏も聞くことができ、私達もこの時ばかりはドレスアップ(?)して大学町の良さを満喫したものである。

 ノース・キャロライナ州は、アメリカン・フットボール(NFL)のキャロライナ・パンサーズ(Carolina Panthers)、バスケット・ボール(NBA)のシャーロット・ホーネッツ(Charlotte Hornets)、そしてアイスホッケー(NHL)のキャロライナ・ハリケーンズ(Carolina Hurricanes)の本拠地を抱えている。おのずとスポーツにも熱が入る。 隣町のUNC at Chapel-Hillは、あのマイケル・ジョーダン(Michael Johdan)の卒業校で、言わずとも知れたバスケット・ボールの名門校である。Duke Universityも多くのNBA選手を送り出しており、両校は絶えず全米大学体育協会(NCAA)のトップにランキングされ、州内、いや隣町の間でのライバル関係にある。長野オリンピックが開催された年のNCAAのバスケット・ボールの決勝は、両校が激突し、オリンピックの視聴率を圧倒したことは有名である。アメリカは愛校心が凄まじいだけに、2つの小さな町の中ではどちらの大学の関係者であるかが日常生活にまで影響する。もちろん、私達はブルー・デヴィルズ(Blue Devils:Duke Universityのスポーツ・チームとそのマスコットの愛称)とKrzyzewski(ヘッド・コーチ)のファンである。バスケット・ボールをプレーしてきた私には、Duke Universityはまさに最高の環境であった。

 Duke University主催ゲーム(大学相互間のホーム・アウェイ方式)のチケットを入手するためには、新学期が始まって落ち着きを戻し始めた頃に、学部学生と大学院生は体育館前の広場で、週末から月曜日にかけての3日間キャンプを張らなければならない。このキャンプは大学公認行事のひとつでもあり、テント内のメンバーの点呼が頻繁に行なわれ、その際ひとりでも不在であった場合、チケットを購入する権利がなくなってしまう。おおよそ4人に一人の割合で権利を獲得することができるので、キャンプに参加すれば何とか入手できるようである(もちろん対戦相手校によって競争は激化するが)。キャンプによって連帯感、チームワークそしてリーダーシップを培うことが目論まれている。 このチームワークやリーダーシップについては、Fuquaでも講義に限らず徹底している。Team Fuqua――学生は毎週金曜日の夜にパーティーや各種催し物を開催し、教職員には毎週水曜日にテラスなどで立食の朝食会が催される。全員がロゴ入りのアパレルを着る日もあり、構成員が一丸となって「明日のFuquaとDuke」を考えている。


謝辞

 滞在中、Duke Universityの関係者をはじめ、大変多くの方々にお世話になった。

 受け入れ準備と研究施設を完璧なまでに整えてくださったHuman Resources ManagerのMarianne M. Toms、些細なお願いも笑顔で迅速に対応してくださったEva Whittなどは、私にプロフェッショナリズムのあり方を示してくださった。Fuquaはもとより、Duke Universityでの生活が快適だったのは彼らのお陰である。「いつでもDukeに戻っていらっしゃい。待っているから。」――もっとも温かい言葉だった。

日頃の仕事で多忙であるにも関わらず、英会話の指導はもとより、アメリカの文化・歴史・教育、さらには人権問題などについて真摯な姿勢で熱心に議論の相手をしてくださったJudith Yanceyには感謝の言葉もない。私達は週に二度彼女に会うことが楽しみで、留学生活をより充実したものにしてくれた。私達が心からもっとも信頼できるネイティヴのひとりであり、彼女と巡り合い、友情を深めることができたことは私達の誇りでもある。

Marianne、Eva、Judith、そしてDukeの皆さん。本当にありがとうございました。

また、研究領域は異なるものの、ほぼ同じ時期にDuke Universityに留学していた方々と親交を深めることができたことも、ひとつの財産となっている。ともにBlue Devilsのバスケット・ボールの試合に燃え、毎試合放映されるテレビの前で酒を酌み交わしながら一喜一憂したことなどが懐かしく思い出される。判事の森鍵さんご夫妻(School of Law)、弁護士と医師の北村さんご夫妻(School of Law・Medical Center)、協和発酵の大沼さんご夫妻(Department of Chemistry)並びに大林組の緒方さんご夫妻(School of Environment)に感謝したい。

 さらに、在外研究の機会を与えていただいた本学にお礼を申し上げたい。



(この留学体験記は、龍谷大学経営学会の許可のもと、龍谷大学経営学会『学会通信』第34号、2001年3月、3-6ページより写真を割愛して転載したものです。)

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